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対中外交の行方

安倍総理のメッセージに思う




 前号で5月に北京で開催された「一帯一路国際協力サミットフォーラム」のことを書いたが、その後さらに大きな出来事があった。6月5日東京で開催された「国際交流会議アジアの未来」に出席した安倍総理が「一帯一路」構想を「洋の東西、その間の多様な地域を結びつけるポテンシャルを持った構想だ」と前向きに評価したことだ。

 安倍総理は一方で、(1)インフラ整備は万人が利用できるよう開かれ、透明で公正な調達がされること、(2)プロジェクトに経済性があること、(3)借り入れ国が債務を返済可能で財政の健全化が損なわれないこと、また(4)中国に対しては「国際社会で共通の考え方を十分取り入れる」ことを要請したという。無条件、手放しで「一帯一路」を礼賛した訳ではないということだが、従来「そういう点がはっきりしない以上、評価も参加もできない」という感じだったのに比べると、たしかに明確な姿勢転換だと評してよいのだろう。

3年前から変化
 前回も述べたことだが、「一帯一路」構想は最初に発表された3年前に比べて、内容が変化してきた。ユーラシアを横断する新幹線計画のような荒唐無稽な投資話は影を潜め、投資回収確実性が重視されるようになった。

 アジアインフラ投資銀行(AIIB)も、この3年の間に変化した。欧州勢など世界80ヶ国が参加した結果、中国主導色は薄まり、「国際開発金融機関」になりつつあり、世銀やADBの関係者もAIIBの初年度の事業を「滑り出しとしては上々」と評価している。

米国も変化
 日本の対中政策の方向付けに欠かせない米国の動静にも変化がある。3年前に初めて「一帯一路」やAIIBの構想が登場したときは、米国でも懐疑や反発の声が渦巻いたが、いまや当初のアレルギーは消え、世銀やアジア開銀もAIIBとの平和共存体制を構築しつつある。米国経済界にも「一帯一路」による受注に関心を寄せる大企業が少なくない。

 豹変しやすいトランプ政権が誕生したことが、この米国の「様変わり」感をいっそう強めそうだ。当初は「米中貿易戦争を始めかねない」と不安視されたこの政権が、4月の米中首脳会談をきっかけに、中国との良好な関係をアピールしている

 しかも、中国は「米国の輸出増につながる事業」として米国企業の「一帯一路」への積極参加を促している。トランプ氏として、これを断る理由はないだろう。米商務省も5月の北京フォーラムに先立ち、「一帯一路構想の重要性を認めて、北京の会議に代表団を派遣する」ことを書面で発表している。

無視できぬ北朝鮮問題
 以上のような中国や米国の変化と対比したとき、日本だけが3年前のまま変わっていないことを危惧していたが、先の二階自民党幹事長の訪中に重ねて、今回の安倍総理のスピーチに接して安堵した。

 安倍総理が今回方針を転換した背景には、トランプ政権の豹変(「梯子を外される」)リスクに備えるという意味合いもあるだろうが、もう一つの大きな背景は北朝鮮の核・ミサイル問題ではないか。

 安倍総理は6月19日の記者会見で、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮対応について、「米国があらゆるレベルで中国と連携して北朝鮮に圧力を掛けていくことが日本にも利益になる」と述べた。こんな言い方も従来聞いたことがなく、官邸の危機意識を窺わせる。

 北朝鮮の核・ミサイル問題の深刻度は異次元に突入し、今後の国の安全を守っていく上で、かなり根本的な事情の変更が起きてしまった。この問題で決定的な役割を果たす中国との外交関係を改善して、腹を割った協議ができるようにすることは、安全保障に関する喫緊事と言ってよい。「一帯一路」をめぐる協力は、そんな関係改善のために、最適の一歩であろう。

 今後日本が具体的に「一帯一路」について何をどう進めていくのかは明らかではないし、一本調子に協力が進むとは思えないが、門は開いた。各省庁も企業も、この青信号を励みに前向きに動いてほしい。
(『国際貿易』紙6月27日号掲載)




 

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