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ブログ 津上俊哉
1月31日付けのポストについて続編

1月31日付けの前ポスト(習近平主席のダヴォス演説)に対して、ツイッター上で以下のような質問をいただきました。たいへん面白い論点ですので、続編でお返事したいと思います。



【1月31日付けの前ポストにいただいたコメント】

 この論点からすると、共産党(軍)の海洋権益ゴリ押し路線が何故同時進行するのかがいささか腑に落ちず。小異と見逃してもらえるはずもなく、一帯一路を目指しても結局呉越同舟となってしまう点ではないか

【お返事】
 仰るとおり。もう少し韜光養晦の皮をかぶり続け、「平和的台頭」の路線を堅持し続ける辛抱が中国にあったなら、習近平がダヴォス演説で売り込むまでもなく、世界から次のリーダーとして推挙されていたでしょうに、と思います。「領土・領海を歴史上のマキシマムまで拡張しないと、ルサンチマンが癒やせない」という今の中国のキャラは、世界がダヴォス演説に簡単に乗る訳には行かないと感じる大きな要因です。
 ただ、ダヴォス演説を受けて20日に出た環球時報の社説はこう言っています。
…政治体制の違いのせいで、西側の認知を得たり「友人同士の親しい」感情を持ち合ったりすることは簡単ではない。しかし、世界から受け容れられ歓迎される大国になるために、中国ができることはあるのだ。

 自由貿易の旗を高く掲げたことは西側の称賛を得た。(中略)中国が己の能力によって国際社会の公共利益に合致することをもっと多く行い、世界が中国に期待するグローバル・アジェンダにもっと積極的に参画すれば、中国と世界の共通言語はもっと増えるということだ。

 自由貿易と気候変動の問題において、中国は既に世界の期待に応え、あるべき責任を負えるようになってきた。加えて、南シナ海での緊張も緩和され、中国の平和イメージを守ることができた。責任ある大国としての中国イメージにより幅広い裏付けが備わりつつあることが世界の中国に対する態度にも静かな変化をもたらしつつあると信じる。
 ツッコミどころは満載ですが、世界の半分くらいはここに書いてあるように感じていることも事実です。環球時報の社説には、経済問題で人民日報にときどき登場する「権威人士」と一脈通ずる、「あの環球時報」とは思えない理性的な論調がときどき登場するのですが、今回もそのクチなので、長々引用しました。

 さて、本題の南シナ海。過去2年間、中国はずいぶんとやらかして平和イメージを大きく損ないました。ただ、昨年CPAの仲裁判断を喰らって以降、大人しくなったことは事実です(「紙くず」とか言っちゃったけどね)。ASEANとの間でも長くお蔵入りになっていた「行動準則」を今夏を目途に合意するとを公約しました(「外部の干渉を受けずに当事者間だけで解決できる」ことをアピールするため)。フィリピンのドゥテルテ大統領の懐柔にも余念がありません。この結果、少なくとも「秋の党大会人事までは手荒なことはしないだろう」という観測も生まれていたのです。あるいは、「ここら辺でいったん事を収める」ことが党内のコンセンサスになっている可能性も。
 そこに来て昨今のトランプ騒ぎ。「ここでまた埋立工事を再開したりしたら、敵失を与えるようなもの。統一戦線づくりの邪魔をしてはならない」という意見は党内でいよいよ力を得て、党大会の後も大人しくし続ける可能性が出てきたと思います。社説の記述も、そこら辺の見通しを踏まえて書いたんじゃないでしょうか。

「それじゃ、心配された南シナ海問題も概ね終熄した? 」
ノーノーw。一時のことですよ。強硬派には暫時我慢させている訳だから、情勢が好転すれば、習近平はバランスを取るために必ず強硬手段を再開しますって。賭けてもいいw。




 

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