Tsugami Toshiya's Blog
トップ サイトポリシー サイトマップ お問合せ 中国語版
ブログ 津上俊哉
【謹告】 5月初めに新しい本を出します

角川新書から5月10日刊行予定、書名は「巨龍の苦闘」です。読んでいただければ幸甚です。


巨龍の苦闘(中)

 
 
 
 
 
「まえがき」から
 
 
  「ノーアウト満塁でマウンドに立ったリリーフエース」――中国国家主席習近平(シージンピン)を野球に喩えると、そうなると思います。台頭イメージが目につく昨今の中国を「ノーアウト満塁」と評すると意外に感じるかもしれませんが、中国経済屋の目から見れば、いまの中国は疑いなく「ノーアウト満塁」のピンチです。「だから言わんこっちゃない」と言うと、品が悪いですが、これまで心配してきたとおりの展開になってきました。

  経済だけではありません。大躍進を遂げた過去十年とは打って変わって、というより、まさにその十年間に溜まった体制の歪みが噴出して、いま中国は大きな壁にぶち当たっています。社会問題が山積していることはよく知られていますし、政治に至っては、薄煕来や周永康が習近平を追い落とそうとした謀反の企みまで露見したのです。内外に発信する「上り調子」のイメージとは裏腹に、体制の内側には危機感が漲っています。

  「リリーフエース」と言えるほど国民から信認されているのか――誤解を恐れずに言えば、いまの習近平ほど国内から支持される指導者は、小平の後いなかったと思います。もちろん厳しい反腐敗を進める習近平を快く思わない特権層もいれば、仮借なく進む言論弾圧を嫌悪する民主派の人々もいます。しかし、習近平に「いまのピンチを乗り切ってほしい」と希望を託す体制内の人々、反腐敗に喝采を送る庶民、ロシアのプーチンのように習近平に「強いリーダー」を感じて頼もしく思う国民は、もっと大勢いるのです。

  ピンチに「登板」した習近平は、体制内の危機感をバックに、異例の速さで権力を掌握し、二〇一四年には「快速球で先頭打者を三振に打ち取る」ように、なかなかやるところを見せました。仮に「後続打者もピタリと封じる」ことができれば、「中共中興の祖」として歴史に名を残すでしょう。

  なにせ「ノーアウト満塁のピンチ」ですから、物事がそれほど都合良く運ぶとは思えませんが、「リリーフはどうせ失敗する」と、断言することもできません。昨今の日本では「中国崩壊」仕立ての本の方がよく売れるようですが、そういう「極論」には与(くみ)したくありません。

  本書では、体制のピンチはどのようにしてもたらされたか、習近平はそれに対してどのような手を打とうとしているかをなるべく読み易く書きました。それなりに理屈に適ったやり方で問題に取り組もうとしているのですが、同時に、そこには様々な問題と限界もあります。その両面を冷静に観察していくことが大切だと思います。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


  本書は外交・安保についても論じています。過去一年あまりの習近平の演説を読むと、課題山積の内政を最優先するために、外交安保面では安定した対外環境づくりを目指し、とくに危機に発展しかねない対外摩擦は極力避けたい考えが明瞭に述べられています。

  もちろんトップの演説だけで外交・安保が決まる訳ではないし、中国の場合、上が末端をどこまで統率できるのかが他の国以上に不安です。しかし、内政の状況から見れば、安定した対外環境づくりを目指す方向性は合理的なのです。日本では、尖閣騒動後の日中関係の悪化が祟(たた)って、このことが看過されすぎていると思います。

  一方で過去数年、中国人の心理には「大国の自尊心」が大いに高まりました。このため、いかに「内政の安定が重要」だからと言って、昔のように目立たない対外政策に戻れば、国民の不満を買います。衝突しかねない二つの要請を共に満たすために、習近平はどんな外交戦略を採り、そこにはどんなリスクがあるのか、結果として中国外交が今後どのような道筋を辿(たど)りそうかを検討しました。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


  経済屋の分際で外交・安保にまで「領空侵犯」を試みたのは、いまの中国経済が置かれた厳しい状況をはっきり認識しないと、習近平が内政や外交で進めていることの狙いも読み取りきれないと思うからです。

  東アジアの国際情勢について言うと、この六年の間、世界中が信じた「中国の高成長は長く続き、早晩GDPで世界一になる」という幻想によって、安全保障環境が大きく攪乱されてしまった、というのが私の年来の主張です。

  中国はそこで生まれた「栄華」の陶酔感に浸って、傲慢で強硬な対外姿勢を採ったし、日本でもそのせいで生まれた極端な恐中・反中心理が国中を覆いました。この二つの現象は、一つの幻想が生んだ双子のようなものです。時間はかかると思いますが、日中双方とも幻想に踊らされる状態から早く脱却して、東アジアを正常な状態に戻すことが双方の利益に叶うはずです。

  しがらみのない自営業と門外漢の強みを活かして(?)、見るまま感じるままに書いた外交・安保論です。日頃マスコミで目にする中国論とは違うことばかり書いてあるので、「違和感だらけ」かもしれませんが、読者各位のご批判を待ちたいと思います。

 
     平成27年4月

    (本ポストの無断転載を禁じます。)




 

TOP PAGE
 ブログ文章リスト

New Topics

中国「IT社会」考(その...

中国バブルはなぜつぶれな...

暑い夏 − 五年に一度の...

対中外交の行方

1月31日付けのポストに...

習近平主席のダヴォス演説...

昨今流行のAI(人工知能...

三菱マテリアル社が中国人...

中国株バブル崩壊で損をし...

梶谷先生からいただいたコ...

Recent Entries

All Categories
 津上のブログ
Others

Links

All Links
マイ・ブックマーク
我的収蔵

Syndicate this site (XML)
RSS (euc)
RSS (sjis)
RSS (utf8)

[ POST ][ AddLink ][ CtlPanel ]
 
Copyright © 2005 津上工作室版権所有