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ブログ 津上俊哉
「アジア・インフラ投資銀行」雑感

2005年に始めた弊ブログの累計アクセスが1000万を超えました。ときおりの更新を読みに来てくださる読者の方に、改めてお礼申し上げるほかないです。ありがとうございます。


「アジア・インフラ投資銀行」雑感


  2005年に始めた弊ブログの累計アクセスが1000万を超えました。一日に何十万、何百万アクセスを稼ぐ巨大サイトもあるなかで、「9年かかって1000万超えたからって、ナンダ?」という声もあるでしょうが、個人ブログなうえ、生来の不精で途中何度も長期にわたって更新をサボった(最長1年間)ことを考えれば、ときおりの更新を読みに来てくださる読者の方に、改めてお礼申し上げるほかないです。ありがとうございます。

  今回は、中国が準備を進めている「アジア・インフラ投資銀行」について、連載している日本国際貿易促進協会の週刊「国際貿易」に二回続けて投稿したのを転載します。




  「アジア・インフラ投資銀行(AIIB)」という構想がある。昨年10月インドネシアを訪問した習近平主席が初めて提唱、アセアン、中央・南西アジアの諸国、さらに韓国やモンゴルなど合計14カ国とも15カ国とも言われる諸国の賛同を得て、中国主導で年の変わり目頃にも設立する準備が進んでいる新しい国際金融機関の構想である。

  目指すのはアジア途上国のインフラ整備、とくに中国と東南・中央・南西アジアの各国を結ぶ「互連互通」「経済回廊」型のインフラ整備で、融資以外にファンド型の出資も行う。当初の資本金規模は500億ドルで、半分程度は中国が拠出する由だ。

  世界銀行やアジア開発銀行(ADB)との重複・競合はないのか?中国は「両行はいずれも貧困削減を主眼とする機関だが、AIIBは域内を『互連互通』させるインフラの整備に専念する」から棲み分けられるとしているが、競合は大なり小なり生ずるだろう。ADBは表向き「構想を歓迎し、協力関係を築きたい」という声明を出しているが、心中は複雑だろう。

  一目で察せられるとおり、これは国際的な影響力を増しつつある中国の戦略的な構想である。国内では「経済力を政治・外交力に転化し、責任ある大国として周辺諸国の経済発展や経済協力の推進を助けることにより、国際イメージを高めソフトパワーを強化する」「人民元の国際化を推進する」等々、この戦略の様々な効用が語られている。

  「戦略性」を端的に表すのは、声をかけられている国々の顔ぶれだろう。米国、日本、インド、ロシア…地域の大国は均しく招待を受けていない。明確に日米を排除するつもりかは分からないが、喩えて言えば、日米がTPPで中国に対して採るスタンスを裏返したように、「勧誘」はしないが、「排除する」とも言わない、「将来的な加盟の可能性は否定しない」といった感じではないのか。

  この構想に日本はどう対処するべきだろうか。私の「第一感」は、日本の側から手を挙げて、会員権は買っておけ、である。

  総裁の椅子には間違いなく中国が座る。出資比率にもよるが、理事になれても副総裁の椅子は取れないだろう。それでも、アジアの開発プロジェクトがまったく与り知らぬところで進行するよりはましだし、日本はそこで「お目付」だけでなく、建設的に口出しをすればよい。

  AIIBが設立されれば、これまで日米で「仕切って」きたアジアの開発援助にくさびを打ち込まれる。胸中は複雑だが、日本だって曾てADBを設立するなどして歩んできた途であり、同じ段階に達した中国がこういう途を歩もうとするのは時代の趨勢。嫉妬しても意味がない。

  しかし、中国も日本や米国の参加を拒むべきではない。どだい国際金融の世界で、中国が先進主要国を排除して、資金被供与国とだけで国際金融機関を設立するのは非現実的である。中国にもこの分野の人材はたくさん育ってきてはいるが、実務層が中心だ。これからも様々な風波が予想される国際経済の難局に遭遇したとき、中国単独の体制では必ず後悔するだろう。

  日米が主導する開発援助は、出融資のコンディショナリティ(条件)も厳しい。資金被供与国側にしてみれば、条件が緩い「第二ADB」の設立は大歓迎だろうが、逆に供与国たる中国としては、日米の参画も得て褌をしっかり締めておかないと、「お荷物案件」ばかり持ち込まれて、AIIB全体が「新興大店の旦那の道楽」に終わりかねない。

  日中関係の現状を顧みると、日本側から手を挙げることは容易ではないが、そこは「政経分離」で手を挙げるべきだ。中国がこれを諒とするかは分からないが、中国が提唱する趣旨に(潔く)賛同して手を挙げた日本を拒めば、アジア諸国もこの構想に潜む中国の「底意」を余計に詮索するだろう。

  どっちに転ぶにせよ、手は挙げておくものだ。微妙な「中国案件」であるだけに、ここは官邸のイニシアティブを期待したい。




  先日、米国の著名な米国外交・安保関係シンクタンク幹部の話を聴く機会があった。「日米同盟」が当日のテーマだったが、話の中心は必然的に「中国」になってしまう。

  昨年米国は「中国と新型の外交関係」を築こうとした。中国が言う「中米新型大国関係」と同じではないが、中国と何とか折り合いをつけて、グローバル・イシューで協力し合う関係を目指そうとした。

  今年の話を聴くと、その期待は後退し、今後中国との関係をどう構築していくか、悩みと悲観がより多く表明された。とくに外交・安保関係では、今後「エンゲージ」と「ヘッジ」を如何に配合していくかが日米両国の重要課題だと述べていた。平たく言えば、「エンゲージ」とは、中国と前向きに関わっていくこと。「ヘッジ」とは、中国と距離を保ち、己の利益が害されそうなら対抗する姿勢だと言ってよかろう。

  その話を聴きながら、前回取り上げたアジア・インフラ投資銀行(AIIB)を思い出した。日本や米国は、これとどう向き合っていくのか――とりあえずの答は出たようだ。報道によると、中国から参加の勧誘があったが、日・米はともに参加しない、だけでなく「第三国にも参加を見合わせるよう働きかけていく」という。

  理由として、既存のアジア開発銀行(ADB)との業務分担が不分明なことが挙げられている。もっと直裁に言えば、競合組織の登場により、融資を受ける国が己に有利で受け容れやすい条件を目指して、双方を「競わせ」「いいとこ取り」する傾向が生まれ、ADBの業務運営は影響を受ける恐れがある。

  しかし、条件の緩い融資は、往々にして事業の失敗を招き、資金拠出国中国も不良債権を抱える。受け入れ国も後で「楽な道」を選んだ咎めを受ける――AIIB 側にもそんな恐れがある。さらに、中国国内では、AIIBの効用として、過剰設備問題に喘ぐ中国設備業界が新たな輸出販路を構築できると喧伝されている。しかし、それではAIIB が利益相反問題を引き起こしやすい「メーカー・ファイナンス」機関に成り下がってしまわないか。そもそも、資金は中国が大半を拠出、加盟国の大半は融資を受ける側――そんなメンバー構成で「多国籍金融機関」がうまく運営できるのか。

  このように、AIIBは「誰も得をしない」結果を生むかも知れないのだが、問題は、日米が「だから参加しない」と決めたところで、AIIBの設立を阻むことはできない、ということだ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

  この問題の根底には、中国が求める「国力増大に見合った影響力・発言権の増大」をどのように受けとめるのかという共通問題がある。日本だって、世銀やIMFでの出資比率を高め、ADBを創設した過去があるから、中国の要求には合理性があることを認めざるを得ない。

  中国も日本と同じ道を進もうとした。リーマンショック後 G20が成立し、IMFや世銀など既存の国際金融機関における新興国の発言権増大を目指した改革が決まったのだ。しかし、この改革は実現していない。この改革が米国の予算負担や協定改正(筆頭株主としての米国の地位の低下)に繫がり、米国議会での承認を得られそうもないからだ。中国が独自機関の設立に動いているのは、既存体制の下で「見えないガラスの天井」に突き当たってしまったから、とも言える。

  本来、経済領域では、外交・安保領域よりも柔軟で「実事求是」な妥協ができるはずである。さらに「経済面の要望は受け容れるから、もっと難しい外交・安保面の要求は諦めよ」と中国を説得することも可能なはずである。

  しかし、経済面でも折り合いをつけることができないでいる現状をみると、外交・安保問題で、「エンゲージとヘッジ」をうまく調合していけるのかを考えずにはいられなかった。




 

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