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ブログ 津上俊哉
「普天間」 三題 (その2)

普天間基地移設問題に関連して、思うことの2点目です。相変わらずの牛涎斎ですが、あともう1回やります。


「普天間」 三題 (その2)
沖縄のこと


  普天間基地移設問題に関連して、思うことの2点目です。

  いま鳩山総理は 「国外・県外」、「埋立は自然への冒涜」 とさんざん言い続けて 「寝た子を起こした」 (沖縄県民の国外・県外移設への期待値を高めた) と批判されている。しかし、もし、総理が 「国外・県外」 と言わず、「期待を煽る」 ことがなければ、辺野古周辺への移設は出来ていたのか。

  「守屋武昌・元防衛次官、沖縄問題の真相を語る」

  辺野古案については元防衛事務次官の守屋武昌氏が 「中央公論」 本年1月号で詳細に語っている。ワルなオッサンだが、ここには本気で取り組んできた人が語れる真実が含まれていると感じるので、長くなるが関係部分を引用する (筆者文責で順序入れ替えなどの編集を若干施した)。

  06年4月7日に防衛庁長官と名護市長、宜野座村長は 「基本合意書」 に署名押印した。・・・1ヶ月後の5月11日に防衛庁と沖縄県は合意書とほぼ同じ内容の 「基本確認書」 に署名・押印した。それが小泉内閣の時で現在の 「V字型案」 だ。

・・・しかし、沖縄はこれで交渉を終わらせなかった。小泉内閣から安倍内閣に代わり、稲嶺知事から仲井眞弘多知事に代わると、「見直すと選挙で約束した」 「県や市は国と合意していない」 「危険だ、騒音だ」 と言って、「もっと浅瀬に施設を出してくれ」 と新たな協議の必要性を言い始めた。

・・・久間大臣だけでなく、自民党の有力者たちから、少しは沖縄に譲ってやったらどうだと言われた。・・・環境アセスメントの結果・・・が出てこないうちに沖縄の仲井眞知事や島袋吉和名護市長だけでなく、中央の自民党や経済界の有力者も浅瀬の方に移動してやったらと言う。これには驚いた。

・・・大田県政の時代からすでに県民の環境意識は高まっていた。それでも 「埋め立て」 に拘った背景には 「受け入れる沖縄側にメリットがない」 という利権の発想があったと思う。しかし、なぜ20年も経つのに新石垣空港の建設が全く進まないのかを考えてみないといけない。サンゴ礁の保護は大きな環境問題になっている。・・・それでも沖縄側は 「海に作ってくれ」 と言う。その時の誘い文句は建設業者と同じく 「地元がOKと言っている」 というものだった。

・・・現在の合意案は、日米両政府と沖縄の間で練り上げたものである。辺野古の浅瀬には自然崇拝の沖縄の人たちが 「神様」 とあがめる島もある。今の移設案を沖合にずらしていくと、この島に近付いてしまう。埋め立て拡大を唱える地元の首長や国会議員は、東京で 「地元の人は島を潰していい」 と言う。しかし地元ではそんな発言を国にしたことを一切言わない。・・・いざ実施の段階になれば、住民は絶対に 「それはだめだ」 と言ってくるのは明々白々なのに。

・・・与党の人々は気軽に沖縄の要望を聞いてやれよというスタンスだった。しかし、そこには地元の苦しんでいる人たちのことを本当に其剣に考える気持ちが入っているようには思われない。沖縄の政治・経済界、マスコミの人も実際に騒音問題などの早期解決を口にする。しかし、何年も解決されない現状を見ると、それは単に苦しんでいる普天間の人を口実に使っているだけだと思う。

・・・多くの住民が苦しんでいる普天間の問題がなぜ12年も動かないのか。おかしいと思いませんか。・・・その一方で、与野党を問わず有力政治家が普天間移設に必要な土砂の需要を見込んでどこそこの山を買っている、などといった情報が地元ではまことしやかに噂されている。これは一体、何なのかと言いたい。


  移設先の辺野古では、陸上と浅瀬 (埋め立て) のどちらに重心を置くのか?を巡って、環境と経済利益のいずれを重視するかといった根深い対立があることが分かる。マスコミ報道は鳩山総理を 「結局元の案に逆戻り」 式に批判するが、実際には2006年の合意直後から、実行可能な案がない状態がずっと続いているのだ。鳩山政権は「辺野古周辺に建設する滑走路の工法や詳細な場所の決定期限を今年8月とする方針で合意」 した由だが、それが実効可能性のある案という意味なら、やはり決まらないだろう。先般の政府決定は、米議会で海兵隊主力のグァム移転関連予算を通すための苦肉の 「時効の中断」 以上のものではない可能性がある。

  一方で、こういう話を聞くと 「要するに 『オール沖縄』 としてはどうしたいのか」、「内部の利害衝突を内部でキチンと調整できるリーダーは沖縄に出てこないのか」 という訝しい気持ちも湧いてくる。しかし、それとて、「基地は沖縄」 と、ハナから決めてかかっている 「ヤマトンチュ」 の手前勝手な論理に基づく考え、なのかもしれない。

  本当に優れたリーダーが沖縄に現れたら、そんな 「ヤマトンチュ」 の意表を突く交渉を企むのではないか。沖縄の地理的な戦略性を逆手に取って 「ヤマト」 と 「中国」 を天秤にかける二股膏薬作戦だ。そうすることが、放棄して久しい沖縄のカードを最大限活用する所以だからだ。歴史は沖縄が永くそういう智慧で生きてきたことを教えてくれる。

  「日支両属」 から「併合」へ ? 沖縄の過去150年

  改めて沖縄の歴史を振り返ってみよう。150年前の沖縄は 「琉球王国」 だった。「日支両属」 と言われたように、内地 (薩摩藩) と清朝の双方に服従の姿勢を示していたから、完全な独立国ではなかったが、ペリーの黒船艦隊は琉球王国にも渡来し、ときの国王と通商条約を締結した由である。

  日本がその琉球王国を正式に併合し (王制廃止、いわゆる「琉球処分」)、沖縄県としたのは1879年のことだが、当時、明治政府の中にも、琉球住民を日本人と認めることに疑問を呈し (注)、或いは経済的見地から得るところがないとして併合に反対する (=従前同様 「属国」 状態に留め置くべきとする) 意見は少なくなかった。しかし、明治政府は結局、安全保障上の理由から併合を決めた (「万一他国ニ占拠セラルレバ内地ノ防禦ニ関スルコト鮮 (少) ナカラズ」)。その前後、琉球王国は清朝に助けを求め、在東京の列強大使館にも密書を送るなど、外交的な抵抗を重ねた。

  「併合」 決定には、果たせるかな、清朝政府から異議申し入れがあり、米国のグラント元大統領が仲介に当たる一幕があった。また、明治政府はその後の清朝との交渉の中で、中国での通商航海権と引き替えに、宮古・八重山諸島は中国に 「割譲」 してもよいと申し入れたこともある。

  沖縄住民が 「併合」 を受け容れ、「日本人」 としてのアイデンティティを育んでいくのは、清朝が日清戦争に破れて以降のことである(注:歴史に関する本稿の記述の多くは 「日本人の境界」 小熊英二著 新曜社刊 に拠っている)。

  仮に清朝がアヘン戦争後の衰退を辿っていなければ、明治政府がこれほど簡単に琉球を併合することはできなかっただろう。このことを肝に銘じた上で、前回ポストで載せた第一、第二列島線に関する中国の地図をもう一度見てほしい。「小笠原群島」、「硫黄列島」 には日本領を示す 「(日)」 の書き添えがあるが、沖縄は 「琉球群島」 と記され、「(日)」 の書き添えもないのだ。

  更に言えば、沖縄には昔中国大陸や台湾から渡ってきた人達の子孫も少なからずいる。彼らは日本では、そのことを敢えておおっぴらにしようとはしないが、中国に渡るときには、蔡とか郭といった祖先の姓を用いた別の名刺も携えて来るそうだ。中国の偉い人から聴いた話だ。

  だからと言って、いま中国に沖縄を併合する野心があると言いたい訳ではない。しかし、過去の 「日支両属」 の記憶からすると、いま日本が自明のように 「沖縄県」 であると考えていることにも一抹の違和感を禁じ得ないのだろう。

  沖縄日本帰属後130年間の 「収支決算」

  明治政府は併合後、沖縄の民生向上、とくに 「同化」 を目指して教育には努力した。しかし、人頭税や女性の入れ墨など野蛮・未開と見なされる風習が存在したこともあって、沖縄は永く差別され、経済水準も本土よりもはるかに低いままだった。沖縄住民はまさにその差別を克服し、経済的に豊かになるために本土との 「同化」 に努力してきた。

  しかし、先の戦争では県土が 「鉄の暴風」 に晒され、県出身軍人・軍属も含めれば、実に住民の1/4が死に追いやられた (4人に1人ですよ!)。その後は米国による軍政が敷かれた。米国領や信託統治領にされても不思議はなかったが、「メリットなし」 との米国判断で占領だけが続けられた。復帰前の軍政は 「低コスト運営」 が特徴であり、強制収容された土地も地代は本土水準の数十分の一、タダ同然の値段で収奪された。それでも復帰前の沖縄県民が日本人としてのアイデンティティを失わなかったのは、軍政下の貧しく苦しい生活から 「本土並み」 への脱却を願う心情によるものだった。

  復帰後の沖縄振興対策は一定の効果を挙げたと言えるが、それでも多くの点で 「本土並み」 には達していない。とくに、今なお日本の陸地面積の0.6%に過ぎない沖縄県に在日米軍基地の74%が密集しているべらぼうな状態は変わっていない 。

  「併合してくれ」 と頼んで日本になった訳ではない

  強制的に併合しておいて、地域と住民を辛い目にばかり遭わせてきたことに、日本国と 「ヤマトンチュ」 はもっと痛切な責任を感じるべきではないのか。とくに、まま見聞きする 「基地の地代で潤っている」 とか 「これだけカネ (公共事業) を落としてきた」 といった意見に至っては、心底憤りを覚える。

  この物言いは、中国の心ない漢族がチベットに対して言い放つセリフと瓜二つだ。曰く 「農奴制から解放してやった」、「発展させてやった」 云々。統治される側の立場に立って、その心情を思いやる、といった姿勢がハナから欠落しているのだ。

  「出すべきカネは出している」 式の 「見下し目線」 の物言いを聞けば、沖縄住民が 「自分たちは本当に 『同胞』 と思われているのか?」 に疑問を感じても不思議はない。優れたリーダーならば、「ヤマトが恩着せがましく 『カネ』 を強調するなら、いっそ中国にも話をして、どちらがより多く出してくれるか、入札でもしてみるか?」 と挑みたくなるのではないか。歴史を振り返れば、それが沖縄本来の生き方なのだ。

  調べてみると、毎年国が沖縄に支出する予算は地方交付税で1,885億円、国庫支出 (補助) 金1,464億円、合計3350億円くらいのようだ。人民元に直せば250億元、年間の国防費の伸びの範囲内だ。仮にそれで沖縄という戦略上の要衝が手に入るなら、中国はその2倍でも出すだろう (尖閣列島問題も同時解決だ!)。「カネはちゃんと出している」 式の物言いは周囲が見えていないノーテンキな思い上がりとしか聞こえない。

  繰り返すが、筆者は中国が近未来に日本から沖縄を奪う可能性があるとも、まして沖縄住民が自発的に日本を出て中国に帰属を求めるとも考えてはいない。付け加えるなら、例え沖縄が日本政府よりも気前よくカネを出してくれる中国を選んでも、基地だらけの現状は変わらないどころか、中国は日米同盟軍に対峙する最前線として、いま以上に沖縄を軍事要塞化するかもしれないのだ。気の毒で残念なことだが、中・米二大勢力圏の境界線という戦略的要衝に位置する沖縄の宿命という点は否定できないと思う。

  100年後を見据えた「日本国民」 の統合

  しかし、近未来の併合の可能性はないとしても、100年後ならばどうか。東アジアの歴史上、過去150年は域内超大国中国が著しく衰退するという例外期だったが、最近、その振り子の振れ戻しが始まった。中国が急速に台頭・カムバックを始めたということは、今後は沖縄を歴史的な 「日支両属」 状態に戻そうとする外力が働き始めるということだ。

  いまの沖縄県や県民を日本、日本人の 「自明の一部」 視すべきではない。日本の都合で併合したのに辛い目に遭わせてばかりだった沖縄県民が 「日本人」 のアイデンティティを堅持してくれていることを、「ヤマトンチュ」 は大いに多とすべきである。そして、沖縄県民が貧しさや基地負担といった窮状から脱却するために 「内地同化」 や 「本土並み」 を願う歴史に終止符を打つ努力をすべきだ。

  鳩山内閣の取り組みは既成マスコミから 「迷走」 と批判ばかりされているが、少なくとも日本と国民多数が永らく目を背けてきた沖縄差別の問題と国の安全保障のあり方を、のっぴきならない問題として俎上に載せる役割を果たした。既成マスコミは社会面で沖縄に同情するふりをし、政治面では現状を変更しようとする政権をたたく。そんな偽善はもうたくさんだ。

  安全保障問題については、次回に触れたいが、誰の目にも明らかな基地負担差別の解消の努力を放棄してはならない。まして、この問題を 「普天間基地の移転立ち消え」 に帰してはならない。そう努力してこそ、沖縄県民は 「同胞」 として遇されていると感じることができるし、長い目でこの国の行く末を展望すれば、事は 「沖縄問題」 に留まらず 「日本国民の統合」 問題全般に関わるからだ。
平成22年5月27日 記



注:琉球住民を日本人と認めることに疑問を呈した意見としては 「琉球国王ハ乃チ琉球ノ人類ニシテ国内ノ人類ト同一ニハ混淆スベカラズ」 (当時の立法院である左院意見)、「豈我民ト同ジカランヤ」 (大隈重信)、「自ズト親疎ノ別アルへシ」 (木戸孝允) 等がある。
  人種的に異なるとの上記見方には疑問がある。本土よりもポリネシア系の割合が高いが、日本人だって 「雑種」 であり、ポリネシア系はいるのである。遠い昔に共通の祖先から分かれた、のであろう。また、よく知られるように沖縄方言に万葉日本古語との共通性があることも人種的な共通性の裏付け材料だ。




 

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