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ブログ 津上俊哉
「大恐慌」:金魚のウンチ式フォロー第4回

一世を風靡した「投資銀行」という業態が、隕石に遭遇した恐竜のように消えました。


                  「大恐慌」:金魚のウンチ式フォロー第4回


  週末に 「モルスタ、ゴールドマンが銀行になる」 と報じられた。預金という安定調達先を得るとともに、万一資金繰りがつまっても連銀の特融を受けられるようにするためだそうだ。過去2週間ほど、この両社でさえ資金繰りが苦しいと言われていたから、そう聞けば 「なるほど・・・」 だが、投資銀行という業態が消滅するということの意味はそれだけでは済まないようだ。
  以前も引用させてもらった金融ブログ 「中年金融マン ぐっちーさんの金持ちまっしぐら」 に簡にして要領を得たコメントが載っていた。
                         前途多難

・・・銀行による預金の保有はその保全を前提にするため、レバレッジや自己資本比率など、様々な制約を受けることになる。それを監視するのがFRBだ
・・・日本の銀行の資金証券部の方はリスクウェートのせいでどれだけ株が持ちにくいか、体験済みでいらっしゃいましょう
・・・それでも株は目に見えるからいいんですが、みなさまの目に触れにくい社債は大変なことになると思いますよ。「US コーポレート」と呼ばれる世界最大の社債市場はまさに投資銀行ワールドで、彼らによって支えられた市場。だからこそこれだけの企業がアメリカには育ったわけですね。しかし、ここはまさにリスクウェート100%の世界、今の銀行のルールだと、ものによっては200%、300%の世界になるので、従来のようには行かないのでしょうね
・・・GMやフォードなど、特に格付けの低い事業会社のファイナンスはえらく苦労するだろうな、と思います。これが原因で倒産する事業会社も続出すると思われます。

  なるほど again である。自由業種であった投資銀行をやめて規制業種たる銀行に転換するということは、「レバレッジを下げて堅実経営をやります」と誓うことを意味する訳だ。上記に関連するが、「バーゼル?」と呼ばれる銀行の自己資本比率規制は、筆者のやっているような小さな投資会社にも及ぶ。銀行がベンチャー投資や未上場企業投資をやるファンドに出資するためには、ここに触れられている「300%」のリスクウェートを積まなければならない。社会の中で公衆の預金を預かり、決済機能を司る銀行は 「なるべくそういうことに手を出さないように」 と奨励 (discourage) されている訳だ。この誓いにより両社は経営が安定するだろうが、投資や資金供給を受ける “Industry” 側には、さらに厳しい “Credit Crunch” が待っていることになる。
  そう言えば、「社債はリスクウェート100%に」 というだけでなく、「証券化」 手法にも規制強化の動きがあるという。FT紙は 「ECが来週にも銀行監督の改善と自己資本規制の強化のための提案をEU各国に送り、委員会も極めて近い将来、これを承認するだろう」 という記事を載せていた (23日付け“Europe plays down chances of US-style help for banks”) 。自己資本規制強化の中身は 「証券化システムを規制するために、証券の “originator” は発行する証券 “exposure” の10%をカバーする “capital” を持たなければならない」 というものになる見込みで、銀行業界の強い反対が予想されるが、金融担当のEC委員は 「何もしないというのは案にならない」 と、こちらも強硬だ・・・とある。
  銀行の自己資本についてBISの規制とECの規制の管轄がどうなっているのか知らないが、はっきりしていることは、両社の業態 「転向」 宣言と言い、ECの規制強化と言い、世間の流れは “deleveraging” を推し進める、つまり与信を引き締める方向にあり、世界経済は金融セクターの経営堅実化と引き替えに、新たな均衡点に達するまで “Credit Crunch” に見舞われ続けそうだということだ。

  しかし、“Industry”は何時でも多様な資本の供給を必要とする。世の中に資金供給者が銀行しかいなかったら、マイクロソフトもグーグルも生まれていなかっただろう。これまでの証券化ビジネスは、言われるように担い手たる “Top Investment Banker” 達の 「個人の強欲」 のせいで異形を呈してしまったので何らかの是正が必要だろうが、「社債も規制、エクイティ投資も規制」 式に資本供給を絞ったら、今度は実体経済に重大な悪影響が生じないか。
  そういう試点から 「バーゼル?」 を 「我田引水」 式に読めば、「投資銀行的な業務 (ベンチャー投資を含む) がいかんとは言わない。しかし、そういう業務は投資銀行とかヘッジファンドとか 『他にやる連中』 がいるんだから、決済と預金を預かる銀行はあんまり手を出すな」 と読めなくもない。しかし、先週、そこで前提とされていた 「他にやる連中」 から 「投資銀行」 が突然消えたのである。

  両社のような動きはルービニ教授のロードマップでも予言されていた。教授は最近FTにした投稿でも、この点を再確認している (21日付け “The shadow banking system is unraveling”)。着々と実現に向かう教授の 「終末」 ロードマップによると、この先にはヘッジファンドの大量破綻が待っているそうだ。そうなると金融安定が再度揺さぶられるだけでなく、「他にやる連中」 が誰もいなくなることで、実体経済はいっそう激しい “Credit Crunch” に見舞われることになる。「我々は生き残り、競争者の消滅により、より優位に立つであろう」 と豪語する大手ヘッジファンド首脳もいるが、個社にそういうところがあっても、全体としてヘッジファンド業界が苛烈なダウンサイジングを余儀なくされ、全体の与信が大幅に減少することは避けられないのだろう。

  いま、未曾有の金融危機に襲われて、世界中が監督当局主導の金融健全化モードに覆われている。そしてEC委員氏が言うように 「何もしないというのは案にならない」 のも事実だろう。前にも書いたが、実体経済への影響を恐れるあまり、“Credit Crunch” は一切起こさせないことを目標とすれば、世界はいまや一国の手に余るようになったグリースパン流を世界規模で再演し、将来もっと大きなバブルの処理を迫られるだろうから。
  よって、“Credit Crunch” の痛みに堪えて新たな均衡点を待つ忍耐も必要だと思うが、“Industry” に対する健全な資本供給チャネルをどうやって再建・拡大するのかという議論が必要になる日も早晩来ると思う。
平成20年9月24日 記




 

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