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ブログ 津上俊哉
「大恐慌」 以来の経済・金融危機? (フォローアップ2)

今日発表になったG7中央銀行によるドル流動性供給のための協調スワップ取り決めなどについて、思うことを述べます。急ぎで書いたので、乱筆ご容赦!


              「大恐慌」 以来の経済・金融危機? (フォローアップ)


  約一月前、表題名のポスト1回目をアップしたときは、我ながら、ちと偽悪趣味的かなと感じていた。しかし、「終末」 博士ルービニ教授が予言したロードマップは着々と、どころか、ますます加速しながら自己実現に向かっている。いまや、今次金融危機が 「大恐慌」 以来最も深刻で、「50年か 100年に一度」 のイベントであることを疑う人はいなくなった。

  ルービニ教授の 「刷り込み」 を受けて以来、筆者はこの問題の核心は “U.S.Inc,.” のバランスシート問題、つまり米国財政の悪化がどこまで進行し、また、それが如何なる副産物を世界にもたらすかにあるのだと思うようになった。今年春急遽創設されたTAFだのTSLFだのと呼ばれる連銀特融制度にせよ、ファニメ・フレディ救済策に盛り込まれた資産担保の短期貸し制度にせよ、ルービニ教授に言わせれば 「価値が毀損して流動性も失ってしまったMBS(Mortgage Backed Securities)などと流動性の高い米国債をスワップする仕組み」 であり、確実に米国財政のバランスシートを蝕む。そこに今後予想される銀行の破綻に伴う連邦預金保険公社 (FDIC) の負担増を足し合わせれば1兆ドル以上の損失になるだろう、これはどこかで米ドルの信任問題に発展する・・・
  しかし、それはもっと緩慢なプロセスだろうと思っていたのが、この1週間でタコメーターの針が一気にレッドゾーンに振り切れた感じだ。リーマンの破綻とAIGの 「救済」 で両社が深く絡んでいたCDS (Credit Default Swap) 市場が一気におかしくなり、劇症 Credit Crunch を発症してしまったからだ。銀行が銀行にオーバーナイトの金を貸さない、モルスタ、ゴールドマンですら資金が取りにくくなり、株価が急落・・・世界で最も安全確実だったはずの米国債にリスクプレミアムが乗り始め、金価格急騰にも 「単なる安全への逃避という以上に、米国債に対する信任低下の始まり」 が取り沙汰され始めた。ついに 「究極の問題」 が地平線上に姿を現し始めた印象である。

  この “doller Credit Crunch” 問題について、今日G7中央銀行が協調してドルの流動性を供給するスワップ取り決めを発表したという “good news” があり、今晩海外の金融市場はそれで少し息をついている感じである。しかし、考えてみれば、これは日銀にとっても危ない橋を渡る苦渋の決断のはずである。
  そもそも、総額2740億ドルの流動性供給 (“spraying the dollars around the world”) のうち600億ドルという日銀の分担額については、個人ブログを主宰する金融関係者から 「日本でドル資金を調達する金融機関なんてどこにあるんだろう」という声 (中年金融マン ぐっちーさんの金持ちまっしぐら)も挙がっているが、日本で営業する外資系の 「金融機関、金融商品取引業者、証券金融会社」 は他のG6諸国の額度がいっぱいになれば日本法人に 「東京で借りろ」 と指令するのではないか。
  そこで問題となるのは円とドルのスワップ及び日銀によるドル貸付の条件である。日銀のホームページによれば、為替レートはスワップの時々のレートによるらしい。今後のドル下落のリスクは日本が負うことになるが、これは仕方ないだろう。
  それでは貸付のリスクは誰が負うのか、当然日本 (日銀) が取ることになる。日銀によれば 「貸付対象先から、適格担保を根担保として差入れさせる」 由であり、「適格担保」 については 「適格担保取扱基本要領」 というのが定められ、そこには問題の資産担保債券 (ABS) も条件付きだが入っている。
  ホームページのあちこちに飛んでも全体像が見えてこないのだが、知りたいことは要するに、上述した連銀特融やファニメ・フレディ救済策が受け入れているのと同じような傷んだ資産を 「適格担保」 と認めるのか否かだ。この点に関して、白川総裁は今日行われた記者会見で、日銀の資産の健全性への影響については 「十分に配慮する」 と述べた由だ。
  これはしんどい問題だ。ファニメ・フレディに2000億ドル、AIGに850億ドルという本家米国の数字に比べても、今回日銀が請け負った600億ドルという数字は小さくない。しかも、この貸付の運用は下手をすれば、危機の震源地米国と横並びの “burden sharing” にだってなりかねない。
  そう詰問すれば 「そんなことはない」 と日銀は言うだろうけど、切羽詰まって借りに来る外国金融機関にすれば、「そんなに安全確実な資産が手許に残っていれば、わざわざ東京に借りに来るか!」 だろう。そこで日銀がダメを出せば 「日本の協調コミットメントは口先だけの調子合わせだったのか?」 と非難されることになるが、逆にそれを避ければ、今回の金融危機の負担を日本国民に負わせることになる。
  そういう意味で日銀にとっては苦渋の決断だろうと憶測するのだが、他方で 「納税者の利益を守る」 ためのアカウンタビリティということについて、日米の懸隔を思わずにはいられない (最近米国のメディアや財務省のサイトなどをしょっちゅう覗いたせいで筆者の感覚まであっちに幅寄せされたのかもしれないけど)。
  これは大事な問題だ。以前も書いたが、「今次金融危機の損失負担を逃げ回っているだけでは解決にならない」 が、国民負担のあり方と限度について、密室の決定が許されて良いはずはない。彼の地で、ポールソン、バーナンキ両氏が議会やメディアに対して、上記数字を説得するために、どれだけの労力を払っているかを思うとき、こういう大事な問題を問い質そうとしない我が日本の政治やメディアは本当に二流だと感じずにはいられない。
  日銀が同情されるべき点は 「それでは誰に相談しろと言うのだ!?」 ということだ。福田残任期間総理?それとも茶番の総裁選で忙しい与謝野財政経済担当相?もちろん事前報告はしているだろうが、昨今の政治情勢下で、どれだけ居住まいを正して国益についての真摯な協議が出来ているのやら・・・
  もう一つ似た心配も出てきた。最近参考にさせてもらっている別の金融ブログ (グラの相場見通し)によると、米国でいよいよ金融機関から不良債権を買い取るためにS&L危機で活躍したRTC類似の新しい連邦機関の設立構想が取りざたされ始めた由だ。いまの財務省・連銀のad-hocな救済では間に合わないと見ての話だという。正攻法なのかもしれないけど、問題は財源だ。下手をすると、これを設立することで、いよいよ米ドル信任危機に着火するかもしれない。
  よって、心配すべき 「ありそうな話」 は今回のスワップ協調のように 「G7による共同拠出」 といった “burden sharing” 要求に発展することだ。でも、日本は “bad bank” だけをやるのか?他の国は (政府の手によってではないけど)、優良資産の安値取得と込みでやるのではないか?・・・この国にも責任感を以て国益を守る誰かがいてくれることを願って止まない。
平成20年9月18日 記

追記 今日中国メディアで、こないだまで人民銀行副行長で、いまは全人大財経委員会副主任になっている呉暁霊女史が 「外貨準備が減っているのではないか」 というメディアの質問に答えて 「このサブプライム危機の中で、外準が若干減ったと言っても皆さんが想像するような深刻さではないし、目下の外為体制改革でも (これまでのように) 外準が受動的にどんどん積み上がる状況を改めているところだ」 と述べたというニュース (新華網 原典:上海証券報)がありました。
  いまのところ外電も含めてどこもキャリーしていないのですが、聞き逃しにできない要素を含んでいます。第一に、6月を最後に発表数字が更新されていない中国の外貨準備は、本当に減っているのでしょうか。第二に、そうだとすれば、これは、膨らむ外貨の持出しに対して、中国がこれまでとは逆方向、すなわちドル売り・元買いの市場介入をしていることを意味します。中国が国内で人気のないレート調整の努力を続けている点では賞賛に値しますが、他方、空恐ろしいほど積み上がってしまったドルのexposureをこっそり減らしているということでもあります (この時期に!)。
  またまた、みんなこういう重大情報をなんでフォローしないのでしょうか。現地邦人メディアの方々、まだ記事を見ませんが、ウラ取りに動くくらいはしておられるのでしょうね?

追記の追記 一晩寝て改めて考えた。米国財務省は、中国の外為管理局が保有する米国債等を売れば、直ぐ分かるはずだ。当然二国間協議が行われるだろう。
  「貴国が強く求めてきた人民元レートの調整を後退させないために、現状レートの維持に必要な限りでしか売っていない。よもやご異存はないでしょう?」 そう言われたら、米国も 「その限りでなら」 と同意せざるを得ないのではないか、なんて考えた。
  売ったとしたら米国債?中国もできるなら、まずファニメ・フレディのGSE債から売りたいでしょうが、そういう風に売れたかどうかは、時期にもよりますね。




 

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