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ブログ 津上俊哉
中国物価問題考

旧い話で恐縮ですが、また一つ、日本で見たことのある気のする景色を中国で見ています。


                         中国物価問題考
                          或るde-javu


  通産省に入った 1980 年、配属された 「商政課」 という部署で 2 年ほど末席をやった。見習い  2 年目には大型スーパー進出を巡る地元商店街との紛争が全国で多発したせいでヒドイ目に遭うのだが、1年目は至って平穏な職場だった。
  商政課は一言で言えば 「流通」 行政を担当する部署だった。「流通合理化・システム化」 という標語があって、チェーンストア・システムの普及や物流センターの建設促進、卸・小売業者の協業化・集団化、受発注や物流のシステム化などを進めていた。
  流通行政のヒット作を挙げれば、商品包装についているバーコード (POS) の標準規格を制定してシステム普及の下地を作ったことだろう。たしか昭和 57 年頃、セブンイレブンが受発注効率化のために POS 標準システムの全面採用を決めてくれたおかげで、ソースマーキング (商品包装へのバーコード表示) の流れが消費財メーカーに一気に広まった。鈴木敏文氏の慧眼によるものだが、これで EDS (電子データシステム) を日本の流通に普及させる基礎が固まった。
  ちなみに、それ以前の POS 推進政策は 「鳴かず飛ばず」 が長く続き、通産省内でも予算要求する先の大蔵省でも 「効果のない施策をいつまで続けるのか」 と皮肉を言われていたのを覚えている。批判に抗弁して政策の意義を訴えるのは大蔵省から出向していた次席課長補佐の仕事だった。当時は現金融庁長官の佐藤隆文さんだったが、これは余談 (^_^)

  そんな政策を進めたのは 「遅れた日本の流通を近代化するため」 だった。日本は当時、既に世界第二位の経済大国になっていたが、世間は未だ 「キャッチアップ・モード」 だった。「日本はまだまだ遅れており、欧米の先進事例を吸収して早く追いつかなければならない」 という感じであり、なかでも 「流通」 は遅れているダメ領域の代表選手、みたいに見られていたのだ。
  過去の資料を紐解いてみると、「流通合理化」 政策が始まったのは、そう昔でもなく、昭和 40 年代前半だ。昭和 30 年代後半に日本が高度成長期に入ってから、物価上昇が顕著になり社会問題化したのがきっかけだった。
  政策立案の背景には生産性の視点があった。高度成長の下で完全雇用が実現して賃金水準が上昇し始める・・・そこで製造業は生産性を向上させてコスト増を吸収するが、「流通業は暗黒大陸」 などという言い方もあって旧態依然、その困ったチャンの 「流通」 が 「ヒトが採用できなくなると困る」 と、生産性向上を伴わないのに賃金を世間並みに引き上げるせいで、コスト増を経済に転嫁している・・・といった認識だ。この問題に対する対策が 「流通合理化・システム化」 だったのだ。
  2 年間の見習い生活で分かったことは 「流通は大事だ」 ということだった。流通部門が販売の末端に至るまで無駄な在庫やコストを省き、かつ、売れ行き・売れ筋情報を迅速・的確に上流の製造部門に伝える役割を担えなければ、いくら製造部門が 「リーン・プロダクション」 と力んでも徒労に終わる。当時の 「流通=ダメ選手」 の認識がすべて正しかったのかは疑問があるのだが、いずれにせよ、その後の流通のシステム化・情報化が日本経済の生産性向上にそれなりの貢献をしたことは確かだろう。

  ここまで書くと、筆者が旧い話を持ち出した理由がお分かりいただけたと思う・・・俄かな物価高に慌てている今の中国が当時の日本に似ている気がするのである。

  中国は過去十年以上、ずっとデフレ気味だったが、昨年後半から物価上昇が問題化している。消費者物価指数 (CPI) は昨年 7 月に対前年同期比 5% アップの大台に乗り、雪害の影響を受けた直近の今年 2 月には、とうとう 8.7% に達した。物価上昇の主役になっているのは CPI 算定ウェートの大きな食料品で、とくに養豚の供給サイクルが谷間に来ていた豚肉は、公式統計でも対前年 5 割高といった暴騰ぶりを示した。中華料理から豚肉が消えたら困る!
  俄かな物価急騰の原因として言われているのは、一に過剰流動性による経済過熱、二にエネルギーを始めとする原材料のコストプッシュ、三に所得と消費の急激な伸びだ (昨年、都市住民所得は 17%、農村でも 16% 近い伸びを示し、住民の消費額も 18% の伸びを示した)。
  いずれも納得のいく説明ではあるのだが、衣類や家庭用品などは横ばい、または値下がりしており、マクロ的、あるいはマネタリーな側面だけで説明できる物価上昇ではない。そこで、もう少しミクロな視点、すなわち、かつての日本の経験の一つを思い出したという訳だ。

  中国の流通については資料が乏しい。商品類型や流通チャネルごとの取引形態や業界構造が 「流通学」 のような学問・研究の対象になってよさそうなものだが、業界人の 「暗黙知」 に留まっている。この 10 年で都市には大型小売店が急増したが、メーカーに売場を貸す不動産業的な色彩が濃く、仕入れ・販売といった流通固有の機能 (いわゆる 「商流」) の高度化が進んでいるようには見えない。現金取引中心という決済形態から見て、受発注のシステム化が進んでいるとも思いにくい。
  とくに、遅れが目立つのが物流であり、トラック運輸に過度に依存しているように見える。全国高速道路網は概成したが、運賃が安いせいか、走るトラックはボロなうえに過積載ときているので、時速 50~60km しか出ない。だから 「安かろう悪かろう」 の物流だと思っていたら、売上高に物流コストが占める比率は 2005 年の中国全業種平均で 8.1%、日本の 4.83% を大きく上回り、決して 「低コスト」 ではなさそうだ (日通総研調べ)。

  いまの中国経済は、通信や電力など国有大企業が独占する業種では独占の弊害が言われる一方、その他一般の自由業種は、製造も流通も 「群雄割拠」 で、ある意味非常に 「市場経済」 的だ。だが、反面で製造・流通を統合して差配できるようなドミナントなチャネルリーダーが見あたらない。流通の高度化・システム化を進める上では、もう少し寡占化が進んで、標準規格普及の推進役が出てきた方がよいのだが、国全体が 「普請中」 の熱気と雑然ぶりを呈している今は望み薄かもしれない。そういう動きが出てくるまで、中国は経済過熱と完全雇用状態の接近がもたらす物価高に悩まされ続けるだろう。

平成20年3月14日 記




 

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