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ブログ 津上俊哉
雑 感 (その4)

「ルサンチマン」充満の文章で恐縮ですが、経済の分からない人間がかねて抱いてきた疑問を書かせてもらいました。


                          雑 感 (その4)
                    日本はなぜ昔より貧しくなったのか


  「熊さん八つぁん」 レベルの問題意識で恐縮ですが、引き続きリフレ派の方に教えを請いたいと思います (リフレ関係はこれで終わり)。


疑問2 リフレ策はゾンビ企業の延命に手を貸すだけ、利上げ「禁断症状」の悪循環を断ち切らないと、日本経済はいつまで経っても正常な金利の付く「健常体」に戻れないのではないか

  「ゾンビ企業」 より 「ジャンキー (「ヤク中」) 経済」 の喩えの方がぴったり来ると思う。「ヤク」 が切れかかると (利上げが俎上に上ると)、「禁断症状」 で苦しみだす (円は上がる、株価は下がる、経済ムードも下がる)、医者は周囲 (マスコミなど) から 「だから言わんこっちゃない、このヒトにはまだ無理なんですよ!」 なんてきつく文句を言われて、渋々 「もう一本」 打ってあげちゃう・・・
  こんな風に茶化すとリフレ派のヒトは気を悪くするだろうが、そういう 「自虐的」 な喩えを使いたい衝動にかられるのは 「何時になったら日本経済は正常な金利の付く 『健常体』 に戻れるのか」 という苛立ちを覚えるせいだ。永年続いた低金利の 「中毒」 になって、日本経済は金利が上げられない体質になってしまったのではないか。

            ・・・それがこの国と国民に深刻な害悪を及ぼしてきた・・・

  90年代初めまで日本では年間200兆円を超えるカネが 「金利」 として受け取られていたのに、いまは70兆円弱しかない。その全部が家計に帰属する訳じゃないが、それ以降毎年数十兆円の金利収入を奪われてきた家計・国民生活がいま直面する日本の現実 ・・・ 年金システム・老後設計が崩壊し、内需主導の成長はますます難しくなり、「格差拡大」 にも大きく与った・・・

  ・・・何もしなくても高齢化が進んで貯蓄が減っていくから、そのうち金利は戻ってくるよ、上がったときはもう貯蓄無いけどね・・・それと公的債務がそのまま残ってるんで、金利上昇でたいへんだろうけど、ヨロシク!・・・
  日本の大多数の国民は 「強欲」 とも 「怠惰」 とも無縁に、つましく暮らしてきた。それなのに 「今の日本に生まれた」 せいで、こんな仕打ちを受けるのはあんまりだ。

  もちろん、以上が 「リフレ策のせいではない」ことは分かっているが、いま大事なことは、どうしたら日本経済が 「健常体」 に戻れるのかだ、と感ずる。
  「健常体」 に戻るためには、禁断症状が苦しくても、どこかで 「ヤク」 依存症状と訣別する必要がある。何時、どのように低金利を止めていくか?の “path” を描かないといけないと思うのだが、「リフレ」 論に感ずる最大の不安・不満は、この “path” を見せてくれないことだ。金利を上げたがる日銀の方も見せてくれないから、どっちもどっちだが、福井前日銀総裁が利上げしようと動いていたときに、政界やメディアから一斉に浴びせられた批判・非難を見て、「では、何時になったら低金利を止められるんだろう?」 と感じた。
  もともとは 「リフレ」 論と 「インフレ・ターゲット」 論は同根だったはずなのだが、いまや印象が ずいぶん違う。一方は 「片道」 (低金利) だけ、もう一方は 「双方向」 (物価が上がれば利上げもする) の印象だからだ。前号で、今夏コモディティ高騰が世界の物価を大きく押し上げたとき、ECBが利上げに動き、FEDも利上げを強く示唆したと書いたが、日本でリフレ派の人から 「景気は悪いが利上げすべき」 といった主張は見かけなかった。あのまま物価高騰が続いていたら、リフレ派の人も 「利上げやむなし」 と言ったのだろうか? それとも、やはり低金利の片道だけ?

  「円安」 にも改めて触れたい。Bewaad さんが最近反論したばかりなので、ここでリフレとキャリー・トレードを結びつけて書くと、「ホントに 『熊さん八つぁん』 レベル」 と嗤われるかも知れないが。
  なんら感覚論だが、筆者は日本の低金利政策、ジャンキー体質、「製造業偏重」 & 「円高恐怖」マインドなどが重なって 「内外金利差」 と 「円安予想」の両方を生んだと思う。投機家は金利差だけでは簡単に動かない、「円ショートに張っても為替リスクは小さい」 と思わせる 「何か」 が付け加わって投機に動くものだろう。その意味で、日本年来の円高恐怖症(注)に加えて、メディア等で低金利維持を求めるリフレ派論調が優勢なことはキャリ・トレをドライブするのに大きく与ったと思う。
注:昔、大野健一&マッキノン教授の 「円高シンドローム」 という造語があったが、外的要因(日米貿易摩擦)が 「内生化」された(日本自身が円安と低金利を選好)だけ、円の ↑/↓ シンドロームは形を変えて依然健在ということか。

  以下は「・・・たら、・・・れば」二題。
ア) 仮に 「キャリ・トレなかりせば、対ドル円レートは20円以上高値で推移していた」 と仮定したら ・・・ 外需頼みの経済回復はできなかったかも知れないが、その代わり家計や消費者はウン10兆円の為替差益を受け取っていたかも知れない。「めのこ」 で申し訳ないが、仮に毎年金利収入の逸失で20兆円、為替差益の逸失でもう20兆円、合計40兆円が家計や消費者から 「収奪」 されていたのだとしたら ・・・ 製造業は円高のせいで今より衰え、雇用も減少しただろうが、40兆円の半分としても20兆円分の需要が生まれたら、今とは別の均衡解が生まれていたかも知れない。
イ) 仮に日本人が今より 「ものづくり」 が苦手なタチだったら (その方向に向かっているけど)・・・ 遊び好きで 「円高」 と聞くと海外旅行を楽しみにするタチだったら ・・・ 「後期高齢者医療制度」 じゃないけど高齢の金利生活者たちが低金利を主張する政党に選挙で復讐するタチだったら・・・
  ・・・どっちのタラ・レバでも、経済は今とは違う姿になるが、日本人は今よりは幸せなのではないかしらん ・・・ 日本って、あまりにも 「供給者重視」 すぎる。官庁がいつもそう批判されるけど、経済界だってマスコミだってみな同罪でしょ?


  学校で習った 「流動性の罠」 は、デフレのせいで実質金利が低下、やがてゼロに近づくと、それ以下に利下げできないから貨幣政策が無力になる、それで不況からも容易に這い上がれない (=罠) という話だった。でも、もう一つ含意が込められているのでは? 「低金利中毒」 になってるせいで、景気が上向いても低金利を止められなくなる (=罠)?  いまさらどう足掻いても手遅れ? そうだとは思いたくないのだが、低金利にかぎらず、消費税上げ、年金制度の再建などなど、この国には後代に思いを致さずに、「いましばらくラリッていたい」 気分が蔓延してないか。
平成20年11月5日




 

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