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「小産権」 とは何か ?未完の中国経済改革?

以前、本ブログで紹介した北京大学の周其仁教授がまた面白い寄稿をしていました。そこから中国経済改革の未完の課題を探ります。


                         「小産権」 とは何か
                        未完の中国経済改革


  以前、本ブログで紹介した北京大学の周其仁教授がまた面白い寄稿をしていた。題して 「小産権は大きなチャンス」 (中文は 8 月 27 日付け 「経済観察報」 紙)。小産権とは何か、日本式に言えば 「市街化地域に編入されていない農村の土地に建ったマンション」 だが、それが話題になる理由については少々説明が要る (以下は上記周教授寄稿に拠る)。

  いま中国では都市住宅の激しい値上がりが社会問題化している。北京の五環路 (東京風に言うと 「環五」、都心から半径約 15 kmの環状自動車専用道) の内側だと、内装のないスケルトン売りで ? 当たり 1 万元以下の物件は見あたらなくなった (一戸当たり面積は 80 ~ 150 ? が多いので、邦貨換算すると 1200 ~ 2500 万円以上ということになる)。ところが、周教授が実地見分した環六 (半径約 25 km) インター近くの小産権マンションは ? 当たり 3600 元であり、立地の差を考慮しても半値以上の差がある。

  これほど値段が違うのは、底地についても上物についても、都市と農村で異なる二元的な制度が敷かれているためだ。
  よく 「中国は土地国有制」 と言われるが、厳密には 「国有」 は都市の土地だけで、農村の土地は文革時代の人民公社生産小隊に由来する 「集体」 の所有という建前である (文革終了後、人民公社は郷鎮政府へ、生産小隊は郷鎮の下の 「村」 へと衣替えしている)。しかし、この 「集体所有」 という概念は甚だ不明確、かつ、村有の土地を村が売却したり、賃貸したりすることは禁止されており、処分権のない所有権という奇妙な権利だ。
  正規のマンション ( 「大産権」 と呼ぶ) を建てるには、土地が国家の手で収用され、住宅用地として競売にかけられたものである必要がある。収用を経て初めて土地が農地から都市用地に編入され、マンションが建てられるようになる。
  それでは土地競売手続きを経ない小産権マンションは違法な商品かというと、そうとも言えないという。農地の中でも耕作地と区別されて 「集体建設用地のうち宅基地」 に分類される土地に建つ農民用住宅については、1962 年に全人代を通過した人民公社条例の中で 「(公社) 社員の住宅は永久に社員の所有とする・・・社員は住宅を売買し、賃貸する権利を有する」 という一項があるという。小産権マンションはこの規定に根拠を求めているのだろう、地元郷鎮政府発行の権利証が付き、契約書には 「永久所有権」 が明記されているそうだ。
  しかし、中国は 「土地は上物に従う」 慣習があり、上下を別々に処分することはできないはず・・・なのに、売却も賃貸もできない宅基地に建つ住宅は売却も賃貸もでき、所有権は永久だという。こうして生まれた小産権マンションは合法とも違法とも判じ難い、中国特有の 「灰色」 商品だ。当局は小産権マンションに対して、あるいは 「法的な保護を受けられない」 と警告し、あるいは 「この問題は実態調査と研究に待つ必要がある」 とはっきりしない態度をとっている。

  こんな混乱が起きるのは、土地利用権の帰属問題が機微で、規定の空白がたくさんあるせいだ。新中国建国以前には土地・住宅の所有権があったのに、これを社会主義化の過程で公有化したのだから、当然抵抗が起きる。とくに農村で乱暴な措置を執行すれば暴動が起きかねない。上述の人民公社条例が 「永久完全な所有権」 を認めた時期が、農村を中心に数千万人の餓死者を出した 「大躍進」 政策 (注1) の直後であることもそこら辺の事情を窺わせる。
  昔の農民は戸籍に縛り付けられて在所から移動できなかった。「永久の所有権」が売買されたり、賃貸されたりしても、顔見知りの村民間のことに過ぎなかったので大きな問題にはならなかった。しかし、時は移り、いまや 2 億人の農民が大移動する世の中になった。その過程で農民住宅の形を借り、都市住民相手に売り出される小産権マンションが出現したという訳だ。宅基地以外に郷鎮企業のための工場用地として位置づけられてきた土地も含めると 「集体建設用地」 の全国総面積は 16.4 万 ㎢、河南省の総面積に近く、中国全土の都市建設用地の 4.6 倍に及ぶというから、無視できる規模の問題ではない。

  周教授は、政府が 「収用」 の名の下に集体所有の農地を取り上げて住宅、工業、商業用の土地として競売にかける現行制度を以前から批判してきた。収用しても安い農産物価格を基礎とした補償金しか払わなくて済む一方で (注2)、競売すれば1畝 (≒ 667 ?) あたり邦貨で何百万円 (工業用地)、果ては1億円 (沿海大都市の商業用地) の値段で土地が売れて莫大な利ざやを生む・・・これでは政府が収用に精を出すのも当然だ。この 「収用→競売」 の過程で市場メカニズムの鎖が切れており、土地資源の配分に混乱をもたらしているというのが周教授の基本認識だ。
  周教授はこの立場から、政府による収用制度に終止符を打ち、農民自らが土地を売り、賃貸できるようにすることを提唱している。農地買い上げのコストは大幅に上昇するから買手の当てもないような無謀な土地収用も影を潜める、こうして土地供給全体に市場メカニズムの規律を及ぼすことができるとするのである。今回の寄稿では、以下の二つの新たな視点も掲げた。
  第一は政府のあるべき役割についてだ。「・・・いま都市化(収用)される用地はほとんどが商業、経営の用に用いられている。それにも関わらず、依然として 『公共の利益』 を名目にして政府が強制的に土地を取り上げる伝統的なやり方には何の道理もなくなっている。政府は独占的に土地を供給しているが、その実、人民と利益が相反する危うい立場に自らを置いている。(人民と利益が相反し、その信を失うことにより) 政府しか供給できない公共サービスの提供という本来の機能が傷つくという大きな代償を払っていると言うべきだ・・・」
  第二は住宅の需給緩和だ。「正規」 の住宅しかカバーしない統計だけ見ると、住宅価格上昇は止まるところを知らないが、いまや 「北京では周辺部に約 80 カ所の小産権開発が行われ、箇所数で北京の住宅全体の 20 %、戸数では 30 % を占めるという。」農地の上に立つ小産権マンションを認知することは、廉価な住宅の供給を増やし、目下政府が頭を悩ます住宅値上がり問題を緩和するためにも役立つ。寄稿の題名 「小産権は大きなチャンス」 は以上の事情を指している。

  この寄稿を読むと、中国の経済改革はまだまだ未完なことが分かる。折しも北京では共産党第 17 回大会が閉幕した。今日発足した第 2 期胡錦涛体制の前途には国民の切実な利害に深く関わる所有権改革の課題も待っているということだ。
(平成19年10月21日 記)

                             付記1

  周教授寄稿は触れていないが、土地利用権の帰属に直接関連する問題として、ここで今年 3 月に制定された 「物権法」 にも触れておこう。

? 競売手続を経て払い下げられた住宅地には 70 年間の利用権が与えられている (他者に譲渡するときは残存期間)。それでは 70 年間が満了したときはどうなるのか? 多くの国民の関心事だったこの問題について、物権法は 「期間満了後、自動的に継続する」 と規定した。しかし、草案段階でいっとき 「更新料を支払わなければならない」 としていた規定は 「議論が尽くされていない」 として削除、つまり今回も先送りされた。

? 物権法は農地請負権 (注 2 参照) についても若干の規定を設けた。まず、耕作地 30年、草地 30 ~ 50 年、林地 30 ~ 70 年という期限が明示され、「請負経営人は請負地を占有、使用、収益し、農林牧畜など農業生産に従事する権利を有する」 とした。権利の更新については 「(請負) 期限到来後は、国家の関係規定に従って請負人が継続して請け負う」 と規定し、譲渡についても 「請負人は農村土地請負法の規定に基づき、請負権を転貸、交換、譲渡等の方式により移転する権利を有する」 と規定した。しかし、ここでも詳細は未定・先送りである。

? 小産権マンション問題の発端となった 「宅基地」 はどうなったか?全人代常務委員会で合計 8 回という異例の回数審議された草案の段階では、この問題についてもずいぶん議論があったらしいが、結局 「宅基地使用権の取得、行使及び譲渡には、土地管理法などの法律及び関係規定を適用する」 という 「予告」 をするのみ、詳細はこれまた 「時期尚早」 で見送られた。

                             付記2

  供給が限られているせいで資産価格が高騰するという事情は、バブルが懸念されている株式にも当てはまる。最近証券監督委の首席エコノミストが 「株の値上がりがかくも急激な理由」 を問われて、「金融市場に供給される金融商品が、量的にも品種的にもまだまだ少ないこと」 を挙げていた。市場に不合理な制約が残っているせいで小産権マンションが市場に出にくいとか、市場の発達が遅れているせいで金融商品が品薄になるなど、中国の資産バブル問題には、需要が局部に集中して価格高騰が起きる側面があるということだ。

  最近中国株式市場では国有企業の大型上場やら堰を切ったような中小私営企業の上場が相次いでいる。しかし、総体としては、中国経済の中で上場企業が占める比重は依然小さい。
  また、品種も確かに少ない。最近、株に投資する投資信託が膨大な資金を吸収するようになったとか、社債の発行が規制緩和されたとか、個人の対外証券投資の解禁が近いとか、金融市場発達の動きは目まぐるしい勢いで起きていて、中国経済が新しい発展段階に入ったことを実感させるのだが、貯蓄増大のスピードに比べると、まだまだビハインドということになるだろう。

  それにしても、(一部にせよ) 中国人は何時からこんなに金持ちになったのだろう・・・海外に逃避していたカネが舞い戻っていることは一つの理由になるが、それだけでは説明しきれない。貧乏国が急激に金満国に変貌する・・・四半世紀前の日本も、外から見るとこんな感じだったのだろうか。


注1 「大躍進」 政策は、近代的な共産主義社会を作ることを目的に、1958 年から 1960年まで毛沢東が主導して施行された農工業の大増産政策。しかし、農村の現状を無視した強引な集団農場化や、農村での鉄鋼生産などを進めた結果、少なくとも 2000 万人といわれる餓死者を出し大失敗に終わった。毛沢東はこの失敗のせいで権力が低下し、後に失地挽回を狙った文化大革命を発動することになる。
注2 上述のとおり農地自身は 「集体所有」 だから農民が直接権利を持つ訳ではないが、1978 年に安徽省農村から改革開放が始まったとき以来、農民には 「土地請負権 (中文は 「土地承包経営権」 )」 の名前で利用権が認められている。政府による土地収用で農民がもらうのは、この請負権に対する補償金。




 

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