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ブログ 津上俊哉
変貌する中国経済 その三の二

「外資導入」への見方の変化(その二)   前回 「外資」 政策を論じたので、ついでに 「外資」 に関連する話題を提供したいと思います。


                   変貌する中国経済 その三の二
                 「外資導入」への見方の変化(その二)


  前回 「外資」 政策を論じたので、ついでに 「外資」 に関連する話題をもう一つ提供したい。従来、「外資」 と聞けば条件反射の如く 「歓迎」 してきた中国だったが、最近は中国企業とくに大型国有企業の買収の形をとる外国投資がしばしば世論の批判や反対を受けるようになったことだ。これも中国の変化を象徴するもう一つの例と言えよう。
  中国ではこの 2、3 年、「企業買収」 が定着してきた。法規の整備が進み、法律・会計・コンサルティングなど関連サービスも発達してきた。欧米の多国籍企業も中国市場攻略のために内資企業を買収するようになった。「自社進出」 は時間がかかる割にパフォーマンスが挙がらない、買収なら失敗しても転売する方法もあるというのが彼らの判断だ。買収の対象になる中国企業に割安感がある上、人民元先高期待のなかで 「買える人民元建て資産は買っておけ」 という風潮があったことも背景として指摘できる。
(はなはだ不十分ながら、欧米勢による資本参加、M&A攻勢の一端を示すものとして、動きが特に顕著な銀行証券業界の資本参加事例及び製造業など産業界におけるM&Aの事例を以下に挙げる。ただし、後者はM&Aが物議を醸して報道された限りであり、(数は多くないにしても日系企業によるものを含め)実態は遙かに多いと考えられる)

                   中国銀行証券業界への外国資本参加事例


                  製造業など中国産業界への外国資本M&A事例


  外資によるM&Aに対する批判論、反対論は、何を理由に批判、反対するのであろうか。批判・反対の背景には次の三つの要因が伏在していると思う。
  第一は 「経済安全保障」 に対する懸念の高まりである。今日、世界の至るところで ”globalization” に対する反作用としての経済 nationalism が台頭している。素朴なものは ”anti-globalization” 運動(反WTOなど)の形をとり、政治や行政の場では 「経済安全保障」 という理屈をつけて語られることが多い。急激な 「異物との遭遇」 に対する心理的アレルギーとして人情に適っているのだが、経済学的には、ほとんど常に間違っているのが特徴の議論である (笑)。
注:経済ナショナリズムは日本でも台頭している。日本の場合、「ものづくり」や「知財権保護」に化体させて論じられているのが特徴といえよう。「ものづくり」も「知財権」も大切な政策課題だが、一歩間違えれば容易に保護主義に転化しかねない危うさを帯びている。日本という国にとって、「そっちへの道は袋小路で行き止まり」ということを改めて肝に銘じておくべきである。

  中国はもともと外国にひどい目に遭わされた近世の歴史的経験から、海外との接触に対しては強迫観念的な警戒感を抱きがちなお国柄であるが、こと経済面においてはこのアレルギー感情が見事なくらい抑え込まれてきた。それは卓越した指導者、鄧小平が老いた身体を張って護った 「改革開放=揺るぎない国是」 という考え方があったからであり、現に改革開放によって国民生活が目覚ましく向上した実績があったからである。とくに、WTO加盟を果たした 2001 年以降の目覚ましい経済成長は、globalization を中国に福をもたらすものとして肯定的に捉える見方を再確認させた。
  しかし、昨今は中国でも「ネット世論」を中心に感情的、nationalistic な心情が台頭してきている。この手の考え方が反外資に傾きやすいのは中国とて他の国と同じである。とくに、昨年起きた、連想 (Lenovo) による IBM / PC 部門買収と中国海洋石油 (CNOOC) による米石油会社ユノカル買収計画が米国でバッシングを受けたことは中国の経済 nationalism や 「経済安全保障」 に対する懸念を高めた印象がある。
  なぜなら、結局、ユノカル買収は米議会の強硬な反対で潰されたし、IBM/PC も買収には成功したものの、米国政府は今後 IBM /Lenovo 製のPCを政府調達から除外する方針を表明したからだ。どちらの事例でも理由に挙げられたのは米国の ”national security (国家安全)”だった。
  「自由貿易の理念を信じて市場開放に努力してきたのに、気が付いたらお題目を真に受けているのは中国くらいで、よその国は違う原理で動いていた・・・中国だけ 『改革開放は良いこと』 だなんて、きれいごとを言っていてよいのか ??」 等々、自由貿易理念に対する幻滅感と中国だけ 「門戸開放」 を続けることへの疑念が強まった気がする。

  批判・反対の第二の背景は、活発に M&A を繰り広げる多国籍外資企業側の 「行儀の悪さ」 が目立ち始めたことである。周知のとおり、中国では未だ独禁法が制定されていない。それをよいことに、特定業種や特定地域でシェアトップ企業を買収するだけでなく、ナンバートゥー、ナンバースリーも買収して市場支配を試みる外資企業も出現している。
  その嚆矢となったのは、1998 年、中央政府と交渉の末、経営不振の国有写真フィルムメーカーをまとめて数社買収し、中国写真フィルム市場の 70% 以上のシェアを握るとともに、爾後 3年間、他の外資写真フィルム企業の中国参入を認めないという約束 ( 「98協議」 と呼ばれる)を勝ち取った米国企業K社の事例であろう。
  私は当初、外資反対論には第一の感情的なものが多いのだろうと憶測していたが、発表されている論考などを読むと、競争阻害への懸念を表明するものの方が多く、一理はあるのである。

  批判・反対の第三の背景は、外資による M&A 案件によって損失を被る(被ることを恐れる)個別の利益集団の存在である。利益集団には買収によって競争相手の力が強まることを恐れる同業の競争会社もあれば、買収によって不利なリストラが行われることを恐れる現行経営陣や従業員もいる。反対の声を上げる彼らは 「私の地位が危うくなる」 とは言わない、「国有資産が外国に安値で買い取られようとしている」、「中国の国家安全が脅かされる」 等々を理由に反対するのである。切実な利害が絡む分、これがいちばんやっかいな反対かもしれない。

  政府はこの風潮に対して、前回取り上げたような政策バイアスは修正するが、「改革開放」 の理念は譲歩しない立場を取っている。過去数年、成長の歪みの顕在化と軌を一にして、「外資」 導入だけでなく、過去四半世紀の改革開放政策全体を攻撃する新左派的な反対運動が高まったのに対して、昨年 3 月の全人代において胡錦涛主席が 「改革開放を揺るぎなく堅持する」 という講話を行い、党内・政府における論争に決着をつけたのである。
  この方針は理論的に妥当なだけでなく、戦略的にも理に適っている。ユノカル、IBM/PC買収に対する米国のバッシングに反発が起きたことにも見られるように、貿易にせよ投資にせよ、保護主義の気運は迅速に他国に伝染するものだ。誰も得をしない悪循環に陥るおそれがあるのだが、そこでいちばん損をするのは、上げ潮に乗ってこれから世界に進出しようとしている中国だからだ。

平成19年1月28日記




 

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