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ブログ 津上俊哉
変貌する中国経済 その三の一

明けましておめでとうございます。永らく更新をさぼっていましたが、年末年始の休みを利用して、ようやく一つこなしました。今回は「外資導入への見方の変化(その一)」です。


                 変貌する中国経済 その三の一
                 「外資導入」への見方の変化(その一)


  変貌する中国で、過去の成長政策を軌道修正する動きが感じられるようになってきた。外資政策はそのような軌道修正が際だつ領域の一つだ。
  以前なら貧しさから脱却するためには、外資導入が最も手っ取り早い手段だった。内外の経済レベルには圧倒的な差があり、経済なら 「外国」 の方がいいに決まっているという一時があった。そのために 「外資」 と聞けば条件反射の如く 「歓迎」 する・・・そういう思考・行動パターンが反省され、見直される動きが出てきた。
  たとえば、これまで外資を誘致するために 「広東神話」 (前々回参照) に象徴されるように 「低賃金」 を売り物にしてきた。しかし、それが劣悪な労働環境という外部コストを発生させたのではないか・・・ 「外資」 というだけで税金が優遇されてきた。しかし、それは内資企業に対する国籍逆差別、競争環境の歪曲ではなかったか・・・ 「外資」 というだけで工場用地が安く分譲されてきた。しかし、そのせいで外資が沿海部に集中し、なかなか内陸に進出しなくなっているのではないか(注) ・・・環境規制が不備だったせいで、環境負荷の重い産業を海外から引き付けてしまった。しかし、それを 「重化学工業化」 だと喜んできたのではなかったか・・・。
  いまや中国はGDPが日本の半分を超える経済成長を達成した反面、貧富の格差や地域格差、環境破壊など成長のもたらす負の側面に直面するようになった。これからは和諧社会、持続可能な社会という方向に向かわなければならないが、問題の根源は過去の政策に内在するバイアスにもあった。そのことに気付き、軌道修正を図ろうとしているのだ。

注:中国の工場用地分譲 (50年の借地権) 価格はこれまでざっと1?あたり10~15?だったが、インフラ整備、農民への立ち退き補償など、原価はもっとかかっている。財力のある沿海部の豊かな地方政府はその差額を補助金で埋めてインフラ完備の工業用地を外資に格安で分譲してきたせいで、下手すると内陸より沿海の土地代が安い。これでは内陸に外資企業が進出しないのも道理である。
  そのような反省の下で、全国各地で法定最低賃金の大幅引き上げが行われていることは前々回述べたとおりだ。環境規制の強化も着実に進んでいる。これらはいずれも外資企業の中国での操業コストを引き上げることになる。
  それ以外に、中国政府が来年新規導入を予定している具体的施策が少なくとも二つある。企業所得税の内外統一と上述の工業用地分譲方式の変更だ。前者については経過措置が執られるし、ハイテク企業などは内外無差別な業種の優遇が続くから、一律の変化ではないが、新規に進出する非優遇業種の外資企業は増税 (15%から25±数%(未定)へ) になる。他方、内資企業にとっては33%からの大幅減税が実現する。後者については相対分譲が入札型分譲に変更になり、外資向けに行われてきた差額補填も禁止される。内資企業は従来よほどの著名大企業でないかぎりインフラ完備の工業団地など買いたくても売ってもらえなかったが、そこも変わる。施行には地域差があろうが、浙江省などは既に始まっているし、上海、江蘇省でも来年からの導入は確実だ。

  これらのバイアス修正は、いずれも今後の外資導入に短期的にみてマイナスに働く。東南アジアへの外国投資 「逆流」 の流れも更に加速しそうである。人によってはこれを見て 「中国経済の自殺行為だ」、甚だしきは 「いよいよ中国経済の崩壊が始まる」 と感ずるかもしれない。日本では 「中国経済成長は外資頼み」 という見方が広く流布しているからだ。
  たしかに、中国経済の外資依存度はストック的に見れば、日本とは比較にならないほど高い。


全工業付加価値  6兆6425億元(99兆6375億円 15JPY@RMB)
 うち外資企業   1兆8997億元(28兆4955億円 15JPY@RMB)
  外資依存率   28.6%

全国税収総額    3兆 886億元(46兆3290億円 15JPY@RMB)
 うち外資企業       6391億元( 9兆5865億円 15JPY@RMB)
  外資依存率   20.7%

輸出総額      7620億?
 うち外資企業   4442億?
  外資依存率   58.3%

輸入総額      6601億?
 うち外資企業   3875億?
  外資依存率   58.7%

  しかし、フローで見た中国経済の外資依存率というのは我々が想像するほど高くはない。その典型例が固定資産投資だ。

全固定資産投資総額    8兆8604億元(132兆9060億円 15JPY@RMB)
 うち外資実際利用額       5931億元(724億?、8兆8965億円 15JPY@RMB)
  外資依存率        6.7%

  筆者は外資政策の軌道修正が中国経済の今後に害をもたらすとの見方について 「8割の "no" と2割の "yes"」 という感じを持っている。まず、「"no" が8割」 の理由を言うと、ストックから見た外資、すなわち進出済みの外資企業の事業は基本的には温存されるということだ。
  その操業環境が受ける影響も致命的なものではなく、むしろ長短両面がある。賃金等の操業コスト上昇は、もちろん全ての外資企業に影響を与える。低賃金でのみ成り立つ付加価値の低い限界的な外資企業は退出していくだろうが、それは付加価値の低い 「加工貿易」 で対米貿易黒字が膨れ上がって困っている中国政府にとって 「内心歓迎」 とまで言わなくても 「織り込み済み」 である。内需市場を狙って進出したその他の外資企業は、賃金上昇による購買力の拡大等の側面にも目を向けるだろう。
  また、上述した二つの具体的措置は進出済み外資企業に影響を与えない。非ハイテク企業などの新規進出が増税措置等により減少するとしても、フローの中国経済にとって微々たる量に過ぎない。中国の内需拡大や中長期的な発展を重視する立場からは、内資企業向け大幅減税による経済拡大効果などにも目を配る必要があると思われる。
  以上のように、外資進出にマイナスに働く政策を中国が採ったからといって、それで直ちに 「中国経済が崩壊する」 とか 「自殺行為だ」 とか評するのは、日本人の勝手な思いこみ以上のものではない。

  次は 「"yes" が2割」 の理由についてだ。これまで中国が誘致してきた外資企業は玉と石が混淆している。少なからぬ数の「外資企業」は優遇政策を享受するために中国企業が外資の 「仮面」 をかぶっただけの 「ニセ外資」 だった。また、(日系企業には少ないと信じたいが、) 香港・台湾系など華人系外資企業などの中には、お世辞にも 「歓迎される企業市民」 とは言い難い行いが多々あった。しかし、総体として見て、そして内資企業との比較で言えば、外国投資は技術だけでなく、マネジメント、企業モラルなど様々な点で、中国で行われた最良の投資を代表してきたと言える。中国企業はまだまだ 「もはや外資に学ぶことはなくなった」 と言える水準には達していない。したがって、仮に外資企業の新規進出が減少すれば、そのマイナスは中長期的に、ボディブローのように悪影響を及ぼす恐れがある。

  それでは、中国の軌道修正によって今後の対中投資は大幅に減るのだろうか。カギを握るのは詰まるところ、中国経済の今後の成長如何だと思う。
  稿を改めて論じたいが、2007年について言えば、筆者は中国経済がかなり大幅な減速に向かうのではないかと懸念している。仮にそのとおりになれば、日本ではまたぞろ 「ついに始まった中国経済大崩壊」 云々の見出しが媒体に踊るだろう。筆者は景気急減速を懸念する一方でこの見方にも与しない。
  いまの中国経済は、豊富な労働力 (13.5億人の4割が1980年以降の生まれ!)、高い貯蓄比率など経済が成長を続ける条件に恵まれている。短期的に調整期に入っても、まだ10、15年は高成長を続けられる客観的条件が備わっている。
  もちろん不安材料は山積している。セーフティネット整備を進めて貧富格差等の問題を改善できるか、経済実権を握りすぎている割には智慧と経験に欠ける政府の機能を改革していけるか、目下桎梏となっている通貨問題をなるべく少ないコストでうまく解決できるか等々である。
  いずれも失敗するリスクがあるが、「きっと失敗する」 という思いこみは排すべきだ。そう思いこむ日本を見れば、世界は、あるいは 「日本だって、石油ショックでもう終わったと言われ、バブル崩壊でもう終わったと言われながら復活してきたではないか」 と訝しみ、あるいは 「日本だって、政府債務問題、ワーキングプア問題、少子化問題を抱えているくせに」 と嗤うだろう。
  リスクはあるが、中国は依然として世界で最もpromisingなmarketの一つであり続けるだろう。コストは高くなるが、marketがあるので今後も多くの外国投資が中国に向かうだろう。つまり、(所得レベルではまだまだ及ばないが、)中国向け投資は欧米向け投資の形態に近付くということである。そういう外国投資を中国はどのように迎えるか。元来がたいへんpragmaticな人々である、技術やビジネスモデル、マネジメント等の点で 「今後の中国にとって値打ちあり」 と感じられる外国投資は引き続き歓迎するはずである。
(平成19年1月4日 記)




 

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