Tsugami Toshiya's Blog
トップ サイトポリシー サイトマップ お問合せ 中国語版
ブログ 津上俊哉
他者を理解するということ(その2)

中国人学者が、日本ではなく韓国を論じた論考を見つけました。いろいろと考える材料をくれる秀作なので、ご紹介します。


                   他者を理解するということ(その2)

  前々号で、孫軍悦さんの 「日中 『文化交流』 再考」 を取り上げ、「 (日中は相互理解ができていないという) 問題の自覚と解決の努力を中国にも求める必要があるが、彼女の講演はその可能性について希望を持たせてくれた」 と書いた。その後、これに関連して、うってつけの素材をネットで見つけたので紹介したい。最近韓国にしばらく滞在した中国人研究者、復旦大学の王義桅助教授による韓国論だ。

  王助教授はこの論考の中で、知らず知らず 「中華」 の意識に立って、自分中心にしか、ものを考えられない自分たち中国人の欠点を繰り返し指摘し、とりわけ、韓国という国との交際ではそれが禁物、そうではなく韓国人の立場に立って韓国を理解することが重要なのだと説いている。
  こういう考え方は孫軍悦さんの指摘、「・・・文化交流で見つめなければならないのは、他者ではなく、自分自身です。他者を見る自らの視点のゆがみ、他者を感じる自らの感覚の鈍さ、他者を考える自らの枠組みの貧弱さ、を気づかせてくれる契機が、文化交流ではないでしょうか・・・ 〈誤読〉 と 〈誤解〉、〈偏見〉 の中で生産されたイデオロギー的な他者像にこそ、互いに理解し合う鍵があると思います・・・」 と共鳴する部分がある。

  孫さんや王助教授のような考え方はいまの中国の主流だとは言えないが、この小論は中国のネットで 「お勧め」 にブックマークされていた。こういう考え方が中国に広まることを願う。原載 「環球時報」 誌とご本人の転載許可を得たので、現物を読んでいただきたい。
王義桅 「韓国との交流は実力より謙虚さが重要」)。


                            <追記>

  王助教授はこの論考の末尾に 「・・・欧米など大国との交流では、中国は実力で尊敬を勝ち取った、しかし、近隣小国との交流では、謙虚さと引き換えに尊重を得るべしと悟った」 と記している。
  白状すると、私はこれを読んで心が揺れた。そんな中国人がもっと増えることを願う一方、日本はこれから 「欧米など大国」 に分類されるのか、それとも 「近隣小国」 に分類されるのかを気にしているのだ。
  王助教授は 「韓国を見下す千の理由があるとするなら、 韓国を尊敬する一万の理由を挙げることもできる。中国はそうしてこそ堂々たる大国である」 とも書いている。私はこの見方に同意する一方で、日本は、中国からそんな風に大国の度量を以て接される相手になるよりは、中国が張り合いたくなる相手であり続けたいとも願っている。

  隣国の台頭は我々の心を戸惑わせる。しかし、我々はその中で微妙な心理の舵取りをしていかなければならない巡り合わせだ。そういうときは、一つの思いで煮詰まってしまわないように視野を広げる努力が必要ではないか。ちょうどサッカーで大きく空いている逆サイドに玉をまわすように。

  ・・・いまは中国台頭に日本が戸惑っているが、四半世紀前、冷戦の間隙をついて日本が再び台頭したとき、中国をはじめ過去酷い目に遭わされた周辺国も戸惑ったのではないか・・・昨今いちばん大きく変わったのは中国自身だが、彼らからすれば周囲が接する態度を変えたように見えるだろう。 「なんでこう悪口ばかり言われるようになったのか」 と ・・・そう言えば、オイルショックの頃は、日本も 「身勝手な石油買い漁り」 で囂々たる非難を浴びせられたことがあったっけ、つまり何かにつけ他人の目を惹く存在になったということなのだ・・・

  隣国の台頭に戸惑いながら、心の平衡と客観性を失わないように、頭の中にあれやこれや補助線を引いて彼我の立場を考える今日この頃だ。     (平成18年4月29日 記)




 

TOP PAGE
 ブログ文章リスト

New Topics

2期目習近平政権の発足

松尾文夫氏の著作を読んで

トランプ政権1周年

中韓THAAD合意

中国「IT社会」考(その...

中国「IT社会」考(その...

中国バブルはなぜつぶれな...

暑い夏 − 五年に一度の...

対中外交の行方

1月31日付けのポストに...

Recent Entries

All Categories
 津上のブログ
Others

Links

All Links
Others
我的収蔵

Syndicate this site (XML)
RSS (utf8)
RSS (euc)
RSS (sjis)

[ POST ][ AddLink ][ CtlPanel ]
 
Copyright © 2005 津上工作室版権所有