津上俊哉 現代中国研究家・コンサルタント

その他

サントリー学芸賞受賞の言葉
2003/12/10
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 拙著「中国台頭」は異議申し立てのために書いた本です。二年ほど前に湧き起こった中国経済脅威論、追い上げを受けて日本はどうすべきかの対策論、或いは中国及び中国人に対する世の主流的論調…それら全てに強い違和感を感ぜずにはいられませんでした。別に中国を擁護したい訳ではありません。それら論調の至るところに国が衰退に向かう予兆が感じられて情けなかったのです。

 90年代は日本にとって蹉跌の10年でしたが、現役世代の覚悟と努力さえあれば、まだ挽回する能力も機会もあります。なのに、いったい我々は何をやっているのかという焦燥感に炒られながら、文字どおり思いを「ぶちまけた」のが本書です。いま思うと滑稽ですが、それなりに悲壮な覚悟で世の主流に向かって「手袋を投げた」つもりでした。

 しかし、世の中は良くしたもので、拙著を書き始めた頃には既に従来の風潮に転機が来ていたのだと思います。この一、二年の間に中国を巡る論調にも少し変化が現れました。今回さらに本書にこの賞をいただいたことは、「自分は従来思っていたほど少数派ではない」ことを裏付ける証のように感じられて、ほんとうに勇気づけられました。

 昨今の中国は人民元問題に象徴される経済面は言うに及ばず、北朝鮮問題など外交面でも国力や影響力、地位の上昇が明らかです。日本は過去、唯一の非白人先進国としてやってきましたが、いま中国に限らずアジアの成長により、大きな歴史の変わり目に立っているのだと思います。

 そういう時代のさなかにアジア、とくに中国との関係をどう設計、運営していけばよいのか、そのとき米国との関係をどうするのかは、今後の日本の命運を左右する重大課題のはずです。ちなみに本書執筆の過程で、私は突き詰める「学究タイプ」ではなく、行動する「体育会系」だと痛感しました。受賞を誇りとしつつ、分際もわきまえて、今後も実践、試行錯誤の中で感じ、考えていきたいと思います。

 正直を申すと、私は本賞の名前を知るくらいで、その何たるかをよく知りませんでした。受賞の報せをいただき、半ばポカンとしながらこれまでの受賞者を調べて、望外の幸せと言うより、ほんとうに心身が引き締まる思いがしました。末文になりましたが、未熟な本書に目を留めていただいた評者並びに関係者の皆様に心から御礼を申し上げます。また、本書を刊行してこの賞をいただくまでには、多くの方々のご助力がありました。意を尽くせませんが、ここに深甚の謝意を表します。

(2003年12月10日)